1974年の夏、国立音楽大学の富士山の麓にある音大セミナーハウスで10日間に亘るフルート講習会が行われた。講師はドイツの名フルーティスト:パウルマイゼン先生。当時、初の日本公演でマイゼン先生のフルート演奏を聴き「なんて美しく、こんなにふくよかで柔らかな音を出せるのだろう」と感動したことを覚えている。その先生に直にレッスンを受けるチャンスに恵まれたわけだから、それはそれは胸膨らませ講習会に行ったことを今でも忘れません。
さて、講習会の初日、先生は黒のスーツに赤いシャツで現れ、まず講習生の前でバッハのソナタを演奏して下さいました。演奏会場と違い、たった数メートルしか離れていない場所で聴く音は一体どんな音なのかを知る絶好のチャンスでした。演奏が始まった瞬間、私の全ての今まで積み上げてきた感覚が飛んでしまった。先生の音は目の前にいるにも関わらず、出てくる音は1メートルか2メートル外側から聴こえてくる。音の出ている箇所が違うことに驚いた。それはあたかも外側のオーラの部分から聴こえて来るようでした。た瞬間でもあった。
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正直、「私でもこんな音が出せるのだろうか」と、少々自信を失いかけた瞬間でもあった。それから無我夢中の10日間が始まったが、先生は私に大変興味を持ち熱心に教えて下さった。いつしか、講習会の10日間も過ぎようとした時、私はあることに気づいた。あれほど先生のような音は出せないだろうと思っていた自分が、「私でも出せる」に変わっていた。夜も昼も先生と過ごしているうちに、当たり前の雰囲気に包まれ、いつしか先生によって全てが私自身に写し込まれていった。
音は縦波であり、優位な波動は劣位な波動をコントロールすることができる。先生は私を上げてくれたのです。講習会に参加した全員が上手くなったのではない。変わらない人もいる。レッスンで上手くなったのではなく、10日間共に生活をしたことで変わった。それは目に見える部分だけではない何かが重要であることを教えていただいたような体験である。
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